本当なら今頃見たアニメのホメカツをしているところなんですが、ちょっとその前にこの作品について触れないわけにはいかんなと思いまして、ホメカツさせていただこうかなと思う次第です。
映画『REST』
2015年、白石晃士監督の自主制作映像作品です。
例によって映画カテゴリで紹介していいのか微妙なのですが、一応こちらで紹介させていただきたいと思います。
え、これ画像『戦慄怪奇ファイル 超コワすぎ!』じゃん、RESTとやらじゃないじゃん、と思われたかもわかりません。しかしちょっとコレ事情が複雑でして。いや複雑ってほどでもないんですけど。
『コワすぎ!』シリーズといえば、当ブログでもしょっちゅう紹介させていただいているんですけれども。実は白石監督、『コワすぎ!』シリーズを制作する際、そのスピンオフ作品もちょいちょい作ってらっしゃるんですよね。『コワすぎ!』の登場人物達を主役とした外伝的短編。これらは基本的に映像ソフト化しておらず、劇場やイベント等で『コワすぎ!』を見た人のみが楽しむことができます。
そういう事情ですので、私これまで一度もスピンオフ系は見たことなかったんですよ。なにせそういう上映イベントが行われるのって、本州のことが多いじゃないですか。私福岡の人間だし資金に余裕があるわけでもないので、いくら好きでも簡単にホイホイ行くの厳しいんですよね。
ところがつい昨日、遂にそれを見る機会に恵まれまして。それがこの『REST』だというわけなんですよ。
これは『戦慄怪奇ファイル コワすぎ!』シリーズの続編『戦慄怪奇ファイル 超コワすぎ!』のFile-01、『恐怖降臨! コックリさん』のスピンオフなんですね。
『コワすぎ!』のスピンオフといえば、登場人物の本編で語られなかった意外な一面が見られるということで知られています。特にこの『REST』は凄まじい作品だと。それをようやく見られるってんですから、私のテンションももう爆上がりでした。
そう、実際に『超コワすぎ!』とセットで本編を見るまでは……。
『コックリさん』事件から半年ほど後、雨の降る夜の街。
マスクを着けて現れたのは、『コワすぎ!』シリーズのディレクター、工藤。
彼が向かった先にあったのは、ひとつの電話ボックス。その中には、ひとりの若い娘がいました。
彼女は『超コワすぎ!』File-01で登場した投稿者の女の子、純。File-01では『コックリさん』の災いに巻き込まれた彼女でしたが、取材班の活躍等により事件は解決、高校も卒業し無事大学生になっていました。
ところが、そんな純は何やら浮かない顔。そうとは知らずやって来た工藤に対し、彼女は『あること』を告げます――。
……えぇ……なんなのこれは……。
『超コワすぎ!』File-01を見た直後にこれを見た私は、そんな気持ちで真顔になるしかありませんでした。
わずか5分の作品ですよ。『超コワすぎ!』本編が70分ちょいなのに対して、こっちはわずか5分。それで、たったそれだけで、『超コワすぎ!』の余韻をガッサァーッ! と持って行かれるんですよ。
直前まで楽しかったり怖かったりで盛り上がってたハズなのに、あとはただただ『REST』に荒らされた心だけが残る。こりゃえらいことですよ。
やはり白石監督といえば、ド派手じゃないのに陰惨さを感じさせる暴力描写が得意といいますか、見ている側に嫌悪感を催させる描写に秀でているといいますか。とにかく、巧みな技術で観客をイヤな気持ちにさせることが得意だと思うんですよね。
だとするとこの5分にはですね、白石監督の得意分野しか詰まってません。始まってから終わるまで、嵐のようなムカつき具合を保証します。
いや、ずーっと電話ボックス映してるだけなんですよ?
『コワすぎ!』等の白石監督作品では、登場人物がカメラ持ってることが多いですし、結構視界がブレまくるんですが、今作はただひとつの電話ボックスを映し続けるだけなので、あんまり目の前がびゅんびゅん動いたりはしない。
それが逆に『救いナシ』って感じですね。カメラマン田代君が撮ってくれてるワケじゃないんですよ。ただ神の視点から事実を見ているという形なんですよ。しかも我々は『神の視点』なら持ってるけど本物の神じゃないから、そこに手出しはできない。つまり、目の前でどんな非道がまかり通っても、誰もそれを止められない。裁いたり止めたり、そういったことができないんですよね。
まぁ、当たり前なんですよそんなの普通の映画なら。映画のカメラマンは多くの場合裏方で、カメラマン自身が登場人物としての意思を持っているというのは特殊な例です。そこでいちいち「神の視点が」とか「誰も手出しできない」とか言う人はそういないでしょう。
ところが、この短編は『白石監督の作品、コワすぎ! シリーズのスピンオフである』という前提がある。いきなりこの短編だけ見る方はほぼいらっしゃらないでしょうから、ほぼすべての観客が、前提として『コワすぎ!』その他白石監督のホラーモキュメンタリーシリーズを意識することになります。
つまり、今回は田代君が「えっ! あのっ、工藤さんそれは流石にまずいですよ」とか言って止めてくれたりはしないんだと。ふたりの間で何が起きても、それはまかり通ってしまうんだと。どうしたってそれを意識せざるを得ないってわけですね。
これがまた効果テキメンです。
なにせ、工藤がこの作品の中で行うことは、『コワすぎ!』ファンがどれだけ頑張っても擁護しようのない行為ですから。
工藤、そりゃ社会的に見て許されないこと色々やってますよ。放送禁止用語をカメラの前でも平気で使う、暴力・脅迫は当たり前、危険だと分かってる行為を他人に強要する、ピッキングはする、最終的には殺人までやらかしますからね。
しかしこれらは、なんとなく「工藤がしたことだから」と許せる範囲にある。恐らくこの中で最大の犯罪であろう殺人だって、理由もなく殺したわけじゃないの、『超コワすぎ!』まで追いかけてきたファンなら知ってるでしょう。その他のムチャクチャな行為も「アハハ、工藤何やってんの」とある種のエンターテインメント性を持って受け入れることができた方が多いんじゃないかと思います。
いや、でも……今回はムリですよ。
事情も何もない。見ていて面白くもないし、スカッともしない。ただただ不愉快な反社会的行為を、5分という短い尺で一気に圧縮してドカーンと見せられるんですよ。
しかも、この電話ボックスの世界には、誰の助けも入らない。どれだけ待っても、ただ工藤は自分のやりたいことをやるだけ。
終わった後には、ただただ不快感と「これが『超コワすぎ!』世界の工藤か……」という絶望感が残ります。
工藤、これやっちゃったら前作までのイメージぶち壊しだよ! 『怖いし酷いけどけどカッコイイオッサン』だったのが、ただの『人としてクソなオッサン』じゃねぇか!
……そう、ええ。白石監督は「それでいい」と思ってるから、この作品を作ったわけですよね。ここに白石監督の強大なエゴがあります。
考えれば、同監督の作品『オカルト』なんかでもそうでした。あれだけテロリストに感情移入させ、彼と芽生える友情にもこの上ない説得力を持たせ、歪んでいるけどいい話のように終わろうとしていたところを、一気に地獄に叩き落とした。
躊躇が無いんですね。ここまで持ち上げてきたものをストーンと落としてやることに。どれだけ人気があろうと、これまでの展開で築いてきた信頼があろうと、見ている方が「えっ、やめてそれはやめて」と思っても関係ナシ。自分の表現に必要だと感じたら、躊躇なくぶっ壊す。
いや、並みの精神の持ち主だったらできませんよこれは。
白石監督のツイッターアカウントをフォローすると分かるんですが、日々ものすごい量のツイートを見てるんですよ、自分の作品に対する。それを見ていて、世間が『コワすぎ!』のどのような点を面白がっており、どの登場人物が好かれていて、どんな風に思われている、ということは把握しているハズです。
意識しなくてもその意見に引きずられちゃう部分あると思いますよ。こういう部分がウケてるならもっとウケてる部分を前面に押し出していこう、とか。このキャラが好かれてるならもっと活躍させよう、とか。「このキャラがウケてるからいっぺんコイツの好感度爆下げしよ」となるのはかーなーり稀なケースでしょう。
でも、やっちゃうんですよ白石監督は。観客が何を思っていようが、「いや、関係ないから。僕が見せたいのはこうだから」と、我々の期待している真逆を叩き付けることができる。
いやはや、クリエイターかくあるべし、って思いますね。
商売である以上需要には応えなきゃいけないけど、客に媚びるだけじゃ何のために自分がこの道を選んだのか分かんなくなってしまう。そこの意識があるからこそ、たとえ客が作品に抱く印象が180度変わる危険があろうとも、こういう外伝作品を(自主制作とはいえ)ドンと出していけるんでしょう。きっと勇気のいる行為だと思います。こういう作品出していくのは。
「見る者の心を動かす」のが創作の目的だとしたら、この作品は間違いなくその目的を達成しています。
結局工藤が何をしたのかには一切触れなかったんですが……その、私としてもむやみやたらと工藤の好感度下げて「幻滅しました……コワすぎのファンやめます」とかなったらイヤすぎなので、どうしても気になる方は、機会を見つけて視聴してみてください。
普段なら長編全体に散りばめている不愉快要素が、5分という短い時間で高濃度に圧縮されています。こんな短い時間で、これほどまでに人の心をザワつかせることができるんだなと、驚くこと間違いナシでしょう……。
それでは、次回のホメカツをお楽しみに!
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