2015年04月19日

小説『時砂の王』をホメる!

どうも、黒道です。
皆さんのニンジャ・リアリティ・ショックもそろそろ収まってきた頃でしょうか。ニンジャの力により爆発的になっていた当ブログのPV数もそこそこ落ち着いてきました。これでひとりでも読み続けてくれる読者さんが増えればいいんですけどね。
あ、まだの方は是非読んでみてくださいね。こちらです。

さて、私事で恐縮ですが、この黒道、生まれて初めて『電子書籍』なるものを購入してみました。
Amazonで買って、Kindleっていうんですか、アレで読めるヤツです。私はKindle端末を持っていないので、スマートフォンにアプリをダウンロードして読みました。
いやはや、便利ですね。電子書籍。欲しいと思った次の瞬間にはもう手に入ってますからね本が。
私、物理書籍と違って画面に映った文字って目が滑るんだよなぁ……と思っていたのですが、不思議とその感覚がありませんでしたね。縦書きなのも関係してるんでしょうか。ひょっとして私、横書きの文字読むの苦手なのかな? 大丈夫かそれって。
それで、具体的に何を読んだかっていうとですね。それを今日は紹介しようと思うんですよ。

小説『時砂の王』



2007年、小川一水・作、ハヤカワ文庫。

カッコイイ表紙でしょ? 括り的にはSF小説みたいなんですよコレ、異世界ファンタジーみたい。私あんまり細かいジャンル分けとか気にする方じゃないんですけどね。今回もネットで調べて「あぁ、これSFなんだなぁ」って程度でして。まあいいやそんなことは。
小説ホメカツはこの『時砂の王』が初めてですね。小説もぼちぼちやりたいなと思っていたのですけど、Twitterの方でフォロワーさんからホメカツリクエストを受けまして。先ほど読ませていただきました。
いや、「この分量にこれだけの展開を、スゴイ!」というのが率直な感想ですね。早速ホメカツの方をしていきたいと思います。

西暦2598年。人類は存亡の危機に瀕していました。
謎の侵略者・ET(The Evil Thing。Enemy of Terra、Extra Terrestrialとも)によって、62年前、人類は地球を滅ぼされたのです。
ETは、ただ人類を根絶させるために存在している増殖型戦闘機械。テメーらで新しい個体を作っていく機能がある機械ってことですね。人類よりいくらか知性のある存在が作ったであろうことは間違いありませんが、意思疎通を図ることは不可能。誰が作ったのかも分からない。休戦もできなければ、降伏も受け付けてはいません。ETによって人類は総人口の93%を失い、太陽系の別の惑星へ避難せざるを得なくなりました。
主人公であるオーヴィルは、そんな人類がETに対抗するべく生み出した人造人間『メッセンジャー』のひとり。耐久性や運動性を極限まで高めてあり、生殖や成長の能力は無い。人類の持っている知識ならおおよそ持っています。
でも、メッセンジャーは命令を忠実にこなすロボットではありません。ひとりひとりに個性があり、自我があるのです。
「自分とは何か」「なぜ自分が戦うのか」。それを考える力を与えられたのは、ただ命令されて「人類」を守るのではなくて、「守るべきもの」を守るため……。
オーヴィルは、多くのメッセンジャーがそうであるように、多くの人と触れ合いながら、その自我を構築していきます。

しかし彼らは、戦うために生まれた存在。やがて戦地に赴くことになります。行き先は、『過去』
ETは数年前に、『時間遡行』という大胆な手法を用い始めました。全戦力の一部を過去へ送り込み、より技術力の無い人類を襲うことで、歴史自体を有利な方向に変えようというのです。ムチャクチャな話です。しかし現実にそういう戦法をとってくるんだからしょうがない。
この作戦に対し、人類が打ち出した対策。それは、メッセンジャー達をETが現れる前の時代に送り込み、現地の人類と共闘すること。敵の力は未知数です。だから、メッセンジャーが行って戦うというのでは不足。現地の人類に危機を伝え、備えさせる。その戦力を最大限発揮させ、共に人類の未来を守っていく。それがメッセンジャーの、つまりオーヴィルの使命。
人類の歴史を守るため、メッセンジャー達は過去の時代へ向かいます。

が。コトはそう簡単ではなかった。
過去の世界に戻って事情を伝えても、ETが実在する脅威であることを納得させても、人類達はまるで団結しようとしません。人類全体の危機だというのに自国や自身の都合ばかりを考え、足を引っ張り合い、責任を押し付け合い……。ET達も馬鹿じゃありません、メッセンジャーの思い通りにさせないために、人類の裏をかくような作戦を様々に講じてきます。結局、ETは止められない。
そうなってしまえば、もうその時代を見捨て、更に過去へ戻るしかありません。でも、時代に介入して掻き回し、多くの命を失い、そしてその時代を見捨てる度に……未来は変わっていきます。生まれないはずの人が生まれ、生まれるはずの人が生まれない。技術の進歩にも大きく影響します。最早、彼らが守りたかった未来は、全くの別モノと化している。それでもメッセンジャー達の使命は、『人類がETに勝利する』歴史を『正史』とすること。どんなにその時代が滅茶苦茶になろうとも、介入は続けねばなりません。
二度とは会えない愛する人を想いつつ、心をすり減らしながら、少しずつ時代を遡り、ETと戦い続けるオーヴィル。そして辿り着く先は……西暦248年、日本。
目覚めたオーヴィルを待っていたのは、やはりその時代にも現れていたET。そしてもうひとりの主人公、悩める若き娘、ミヨ。またの名を、邪馬台国の女王、卑弥呼
メッセンジャー・Oを名乗ったオーヴィルを、彼女は『使いの王』であると理解します。「世界にはいずれ災いが訪れる。その時は、全ての人類が力を合わせること。そうすれば、神の使いが助けてくれる」古より伝わる伝説。邪馬台国だけではなく、海の向こうの様々な国にも。彼こそが、その使いであると。
彼女はオーヴィルを『王』として迎え、災い――ETを退けるため、共に戦い始めるのです。

『過去に戻って歴史を変える』という話は、これまでいくらでも存在したものと思います。しかし、この『時砂の王』における時間遡行は、他の作品とはほんの少し事情が違うんですね。
普通、過去に戻ってやり直し、っつったらアレでしょう。現在にある大事なモノを守るため、現在に起きた悪い出来事を変えるため。とにかく、なんとかしたい『現在』があるわけです。
ところが、この作品ではそうじゃない。オーヴィル達メッセンジャーに、我々が言うところの「守りたい『現在』」は、存在しないのです。

実はですね。オーヴィル達の生まれた26世紀という世界は……いずれ滅びることが決まっているのです。
これはまあ簡単な話でして。未来の人類が滅びていないならば、27世紀とか28世紀とか、未来から時間遡行で26世紀に向けて援軍を送りまくればいいのです。ET相手に苦戦したの分かってるわけですから、余裕ができた未来から過去に援助を送って、戦局を有利にしてやった方がいいに決まっています。現にそうするための準備も進めているのです、今のうちから。
でも……未来からの援軍は、訪れません。人類は、敗北を運命づけられているのです。
その歴史を変えるために過去へ戻って、歴史を引っ掻き回すたびに、未来はどんどん変わっていきます。というより、枝分かれするようにして、異なる歴史を辿る並行世界がどんどん生まれていくわけですね。どの並行世界でも、そのうちメッセンジャーが開発されて、それを過去に送り込んだりという動きが出てきます。オーヴィル達、オリジナル・メッセンジャーと合流して、どんどん過去でETと戦っていくわけですね。それは頼もしい限りなんですが。
……そうやって引っ掻き回した結果、オリジナル・メッセンジャー達が愛した26世紀は、もう決して訪れないんですね。
これからやって来る26世紀は、自分達が歴史を改変した結果生まれた26世紀。たとえETを退け、人類を救えたとしても、彼らに帰る場所は無いのです。

オーヴィルは、26世紀に愛する人がいました。サヤカ。それが彼女の名前です。
ETとの戦争に勝利するため生み出されたオーヴィルは、サヤカとの交流の中で、自分の守るべき人間や歴史というものに対して考えを深めていきました。勿論サヤカもオーヴィルを深く愛していました。戦争が終われば無用のものとして姿を消すであろうオーヴィルと、亜光速宇宙船で駆け落ちしようとしたくらいです。
そんな彼女を、滅びが確定した時代に置いて。しかも、彼女の存在しないであろう「歴史の枝」へ次々と飛び移りながら、メッセンジャー達は戦っていきます。
何を守れというのか? どんなに戦おうが、自分の愛する者は助からないというのに? 自分の愛した世界は、存在すらしなくなるというのに?
心にぽっかりと穴を開けたまま、何度も時代を遡り、オーヴィルは苦悩します。

苦悩するのは、卑弥呼も……ミヨも同じです。
ミヨは元々、「生娘だから」という理由だけで、無理矢理女王・卑弥呼として祀り上げられた人間です。たまたま才覚があったために、そして、自分を連れてきた男の、「この娘を自分のものにしたい」という卑しい欲望から逃れるために、彼女は威厳ある女王を演じ続け、ここまでやって来ました。
そんなものは全部捨てて、どこかに逃げ出してしまいたい。
そう思っていた矢先、更なる問題が……そう、ETの問題が降り注いでくるのです。
オーヴィルの存在を皆に認めさせるため、皆が団結してETと戦うため、周りの様々な思惑の中、彼女は卑弥呼として動き続けます。同時に、自分と共に人類を救うオーヴィルに、少しずつ惹かれていくのです。様々な時代の中で、何度も何度も人類を『見捨て』てきた、哀しい戦士に。

そう、この小説の楽しみ方は、SF作品というだけではありません。この作品は、悩める登場人物達の心の内を繊細に描いた作品でもあるのです。というか、私は熱心なSFファンではないからか、むしろ後者に魅力を感じました。

オーヴィルやメッセンジャー達の苦悩。自分達が守りたい人類、歴史とは何なのか。それに意味はあるのか。
卑弥呼ことミヨの苦しみ。ただの娘に過ぎない自分が、どうして国や民を背負って生きねばならないのか。
彼らの苦悩は、根っこで繋がっています。
「守るとは何か」
オーヴィルは愛する者も愛した場所も存在しない歴史を。ミヨは無理矢理背負わされた国と民を。たまたまその立場だというだけで、守らなければなりません。
どうして自分が守らねばならないのか
それは、オーヴィルがメッセンジャーとして生を受けた時、そのクリエイターから下された命題でもあります。

また、メッセンジャーに指令を下す人工知能・カッティは、オーヴィルやミヨとしばしば対立します。
カッティは、人類がETに勝利する『正史』がたった一つでも生み出せれば、それで良し。そのためなら、それ以外の歴史に属する人類はどうなろうと構いません。
しかし、オーヴィルはそれに従って、幾度も幾度もETに敗北する人類を、その世界の歴史を、見捨ててきました。本当にそれでいいのか。

守るって、何なんだ。

深く重いこのテーマを、時間遡行モノSFという「定番ネタ」を用いながら、そこに独特の設定を盛り込みつつ描いた作品。それが本作であるように感じました。
ETとの駆け引き、倭人とETの戦い。オーヴィルや他のメッセンジャー達の人間関係。ETクリエイターの正体。胸を打つラスト。読む者の心を引き込みながらめまぐるしく展開していくこの物語を、わずかこれだけのページ数に収めた作者の手腕には驚かざるを得ません。

私のようにSFに疎い者でも、充分に楽しませてもらいました。数時間あればイッキ読みできる分量に、ドラマ1クールやってもいいくらいの濃い物語がギュギュッと濃縮されています。皆さんも是非身構えず、お手に取っていただきたいと思います。



(あっ、そうそう、電子書籍もありますからね!)



明日からまた入院です。病院には映画もあるし、次のホメカツはその中から選ぼうかな……。
それでは、次回のホメカツもどうぞお楽しみに!

ブログランキング参加してます。よろしければクリックお願いします。


↓monacoinによる投げ銭メント行為は大歓迎です。
monacoin:MUfy2FARJdmkzP4KB69GYqbUqKhrgSDTSr
posted by 黒道蟲太郎 at 23:17| Comment(1) | 小説 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
てか前回の「ZERO」の時も思ったけど、このブログからamazonとかの商品ページに飛べるように出来たらいいなって思う。
今回も、すごく自分で読んでみたくなりました。
Posted by 柳田政作 at 2015年04月19日 23:51
コメントを書く
お名前:

メールアドレス:

ホームページアドレス:

コメント:

×

この広告は1年以上新しい記事の投稿がないブログに表示されております。