2015年04月14日

漫画『ZERO』をホメる!

私事で恐縮ですが、私は現在入院しています。
健康状態が悪いわけではなく、治験というやつですね。新薬の実験台的なことをする有償ボランティアです。
入院中はヒマが沢山あるわけです。病院側もそのヒマを潰すため、様々なものを用意してくれています。その代表的なものが、漫画です。
沢山あるなぁ、適当に読んでみるかぁ。軽い気持ちで手に取ったとある漫画。
それが大変素晴らしい作品だったので、この場でホメさせていただきます。



漫画『ZERO』
1990-1991年、松本大洋。小学館、ビッグスピリッツ連載。全2巻。

不勉強なもので、松本先生について私はよく存じ上げないのですが、『ピンポン』や『鉄コン筋クリート』の作者さんなのだそうですね。有名なんでしょうか、だとしたら今更何を、といった感じですが、どうかご容赦ください。なるべく私の言葉で、ホメカツさせていただきたいと思います。

なお、今回は最後までのネタバレアリです。これから読みたい方は、ご注意ください。

プロボクサー、五島雅。人は彼を『ゼロ』と呼びます。

彼は天才でした。20歳でミドル級世界チャンピオンの座を手に入れて、なんと10年もそれを守り続けている。その間、一度も倒れない、一度も負けない。だから、ゼロ。

しかし、彼はあンまりにも強すぎました。ホントに誰と戦っても倒してしまうんです。ベルトを狙う、どんな挑戦者が現れようとも。最初の頃はお客さんも盛り上がってたでしょう。でも、段々飽きてくるんですね。どんなボクサーが彼に挑戦しても、今では「ハイハイ、どうせ五島の勝ちでしょ」ってな具合。無論、実際に試合が始まってみても、その予想は覆りません。勝つと思ったらやっぱり勝った。そりゃそうだ。そんな具合で、いくら試合を組んでもあーんまり盛り上がらない。ライバルなんて存在しません、彼が最強なんです。

でも、最強『過ぎる』。実際に彼と戦って、ボクサーを辞める者も多数。「俺がどんなに努力しても、あんな風にはなれない」って。才能の限界を感じてしまうんですね。次元が違いすぎて、憧れの人にはなれない。ただ、畏れの対象となるばかり。

しかもこの五島、人の都合を全く気にしない。
ボクシングも興行ですからね、プロモーターさんもお客さんが盛り上がらないと困っちゃうわけです。プロモーターからすれば、『ギリギリの勝負』を見せてほしい。手に汗握る攻防があれば、お客さんも「おっ、今回こそは!?」と盛り上がるじゃないですか。
でも、そうじゃないんです。五島はそんなことに配慮しない。できない。圧倒的な実力差で、相手を壊してしまう。

彼は孤独でした。
ある登場人物は言います。「生まれる時代が違えば、彼は人をいっぱい殺していた。ミスキャストだ」
戦うこと、ただそれだけしかできないんです。リングの上でしか息ができない。自己表現の場が他に無い。ボクシングを彼から取り上げたら、そこには本当に何も残らない。

そんな五島も30歳。
いつものように圧勝していると見せかけて、本人は実際衰えを感じていたりします。
そんな中、五島はあるボクサーの噂を耳にします。南米の若きボクサー、トラビス。なんでも、スパーリング中に相手を殺してしまったとか。凄まじいヤツです。
五島はトラビスに興味を抱きます。異常なまでに。五島は、トラビスに感じたのです。自分と同じ匂いを。
周りも、五島のいつもと違う雰囲気に気付き始めます。まさか五島は、トラビスにベルトを譲り、引退してしまうのでは?
当然プロモーターはそれに乗っかります。
『五島雅、最後の戦い』
そう銘打った、二人の対戦が組まれたのです……!

この作品は、五島雅の『強すぎるが故の孤独』を見事に描いています。
五島は幼い頃、虫を握りつぶしては、こんなことを言っていました。
「全部壊れてしまう。壊れないおもちゃが欲しい」
ところが、ただそれだけのことが、30歳になっても叶わないんです。
彼は「おもちゃが壊れないように」配慮することなんてできません。己の全てをぶつけて、なお壊れない者が。自分と同じレベルで戦える者が現れれば、それだけでいいのに。それが全然叶わない。
暴力以外のおもちゃを何も知らないのも、五島の寂しい所です。せめて、他に何かあれば、そこまで孤独を感じることは無かっただろうに。彼は本当に、ボクシング以外何も知らず育ってきたのです。
彼は、孤独でした。

そこに現れるトラビス。彼こそ『壊れないおもちゃ』。五島がどれだけ恋焦がれたか分かりません。
ところがそのトラビスは、五島と同じ素質を持ちながら、様々なしがらみに囚われています。
五島は天涯孤独の身。守るものなど何もありません。でもトラビスは違う。家族がいます。家族の生活を守らないといけない。だから、周りの偉い大人の言うコトは聞かないといけません。そうしないと興行が盛り上がらない。お金が入らない。家族を守れない。そういうわけで、その内なる狂気を、ぐぐーっと押し込めざるを得ないわけです。

そんなトラビスを、五島は少しずつ挑発していきます。
お前もこっちに来い、守るものなど何も無い、戦いの中でだけ輝ける、狂気の世界へ! と。
無論直接は言いません。しかしトラビスは、五島の態度から段々とそれを感じ取ります。守るべき者のため、なんとか人間の世界に踏みとどまろうとするトラビス……。
でも、彼もまた狂気の世界の住人なのです。
彼はその内なる才能を、試合の中で一気に爆発させます。狂気のファイター。五島に並び得る存在……。
五島は、今まで出せなかった本当の力を、真の狂気を解き放ちます。やっと、やっと、壊れないおもちゃが目の前に……。
いや、違うんです。彼が本当に欲しかったモノ。

友達です。

ただ、同じレベルで遊べる友達が欲しかった。でも、本当の本気を出す前に、みんな壊れてしまう。
30年間待ち望んだ、壊れない遊び相手。友達が。今目の前に。

でも、嗚呼、なんということでしょう。トラビスは確かに狂気の男でした。
しかし、五島の真の狂気についていけるほどのステージには、立てていなかったのです。
五島の本当の姿を見たトラビスは、おびえてしまいます。今まで戦ったボクサーと同じように。俺はああなれない、俺はああなれない、と。
30年間待ち焦がれた友達、でも、それすらも『壊れるおもちゃ』に過ぎなかった。
トラビスを打ち倒し、五島は叫びます。うおおおお。うおおおお。
魂の咆哮。真の孤独を知る者の咆哮です。

そして彼は思うのです。
花がいい。生まれ変わるなら、花がいい……。



分かり合える、一緒に楽しく遊べる友達。
それさえ手に入れば良かったのに、強さがゆえにそれすら叶わない、孤独な男の物語を、荒々しいタッチで描いた傑作です。
全二巻構成なのですが、二巻から描かれる後藤対トラビスの戦いには、ただただ圧倒され、飲み込まれるばかり。解放されたトラビスの狂気が、更なる狂気によって飲み込まれてしまう。そして、最後の叫び……。
読んでいる時は熱い気持ちに、読み終わったら切ない気持ちになります。

美少女キャラが出てくる漫画も大概好きなんですけど、こういうガツンとくる作品をもっと読みたいなと、そう感じさせられました。
皆さんも是非どうぞ。と言ってもストーリー全部語っちゃったんですが、ストーリーだけじゃ語れませんよね。映画だろうが漫画だろうがアニメだろうが。それがどのような形で描かれているかが見どころなわけですから。
まだ読んでいない方は、是非この圧倒的なパワーを、そして切なさを感じてほしいと思います。



……なんだか、作品の魅力というより、ストーリーを語っちゃった気がします。反省。
次はもっと魅力を伝えられたらいいな、次回のホメカツをお楽しみに。

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ラベル:漫画 松本大洋 ZERO
posted by 黒道蟲太郎 at 17:55| Comment(4) | 漫画 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
めっちゃ面白そうに思えた。全2巻なら買おうかな。
Posted by 柳田政作 at 2015年04月14日 18:25
ヘッズでもある架神恭介氏が原作をつとめる漫画で戦闘破壊学園ダンゲロスというのがありまして、もしよかったら感想を読んでみたいです。
Posted by at 2015年04月15日 00:47
一ヶ所、後藤になってるよ。
Posted by at 2016年05月18日 06:14
松本大洋の作品はほんとに素晴らしいと思います。もっといろんな人に読んで欲しいです。
ZEROの次に「花男」という作品も読んでみて下さい
Posted by at 2017年08月15日 17:14
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